2012ミャンマー25 インレー湖の土産物店で働く「首長族」と蓮の布
2020/05/11
インレー湖のボートトリップも観光客相手のツアーであるからには、土産物店への半強制連行という宿命から逃れることはできない。「俺はこういう土産物には興味はないんだよ!とっとと次へ連れて行け!!」という人も少なくないだろうけれど、こういう店を回るからこそツアー価格を安く抑えることができるわけで、どうしても嫌なら「割高になるけれど自分で乗り物をチャーターすればいいじゃん」ということになる。どちらを選ぶか、と言うことだな。
この半強制土産物店引き回しシステムは、海外格安パックツアーでは空港への送迎と組み合わせになっていて、最近では避することがかなり難しくなっているのだが、私はそんなに嫌いじゃない。早くホテルに入りたいとは思うが、試食品などを口に入れながら観光ビジネスの一面をのぞき見するのは決して退屈ではないし、「これでツアー価格が3000円位安くなるんだろうな」と思えば許せてしまう。まぁかりかりしなさんな、ということだ。
インレー湖の沿岸にはたくさんの水上集落があり、そこにハンドメイドを売りにした土産物店がある。
例えばここは手織りの工房だ。
この工房では、絹、綿、そして蓮の繊維を紡ぎ布を織っている。私は蓮で布を作ることができると言うことを知らなかった。蓮での布作りは伝統工芸保存の一環として最近タイでも行われ始めたが、それまではここインレー湖周辺でしか作られていなかったらしい。他の地域では良質の布はできないのだそうだ。
この布を作るためには、まず蓮を4~5本束ねて輪切りにする。
蓮の茎には粘りのある繊維が数本走っていて、切り口から出てくる。
これを4-5本分まとめ指先で転がすとやがて粘りがとれ、やっと糸1本分の太さになる。これをまとめ糸にしていく。
こうしてできた糸を紡ぐ。1ヤードの布を織るためには約1万1000本の蓮の茎が必要になるらしい。基本機織りなんて基本根気の作業だとは思うのだが、絹や綿に負けず蓮の布折りもかなり気長な作業だ。
希少性のためか安いものではなく、日本ではかなりのお値段だ。92cm×275cmの布を9万円くらいで売っている店もある。厚くて粗い目のこの布は、まるでコーヒー豆を輸出するときに使う麻布のようだ。まぁ、私は買わないんですけどね。
傘の店もあった。
雨の多い東南アジアでは傘は必需品だ。日本だってつい100年かそこら前までは和傘を使っていたわけであって、ミャンマーにだって現地で受け継がれた傘がある。東南アジアの傘工房と言えば、タイ・チェンマイ近郊ボー・サーンの紙傘工房が有名だけれど、こちらはステンシルで模様をつけた布傘だ。多少実用性が高そうに思える。
傘というやつは複雑な構造をしていて、作業工程も結構ややこしい。
水に負けず、折りたたみができて、しかも見た目の美しいものをということになると、やはりこれは工芸品と言って良いものになる。立派なものだ。まぁ、私は買わないんですけどね。
この傘工房は他の土産物も手広く扱っている。
そして従業員には、こういう皆さんもいる。
パダウン族。ミャンマー・カヤー州(旧カレンニー州)の北西部に多くすむこの民族は「首長族」として知られることが多い。パダウン族の女性は真鍮のコイルを首に巻くことで首の長さを強調する伝統があり、それが他の民族には奇異に見えたため、こう呼ばれることになったのだ。
パダウン族は、ミャンマー以外ではタイの一部にも住んでいる。タイでは "long neck Karen" (首長カレン)と呼ばれるが、当人たちは自分たちを「カヤン」と名乗っており、カレン族だという意識はないらしい。タイ国内ではメーホンソンとチェンマイ県に居住地がある。
メーホンソンのそれは難民村兼観光村であり、チェンマイ県のそれは明確な観光村だ。
メーホンソンの「首長族」の村である MAE FAH LUANGでは250バーツの入村料を徴収していて、これがミャンマー国内反政府ゲリラの活動資金になっていたとの噂もある。
(タイ、メーホンソン近郊 MAE FAH LUANG 2006)
チェンマイ県のそれは今や複数にあり、どれもが明確な観光村だ。「見た目が奇異なため集客力がある」ということで、タイ人のやりそうなことだ、とも思う。そして全く同じ理屈で、この土産物屋にもパダウン族の女性が働いている、ような気がする。
ここで「ちょっと風変わりな文化を見世物感覚とはなんという!」的なことを言うつもりは全くない。
だいたい旅行なんてものは、自分の知らない文化や風習に触れることが目的なのだし、「自分の目で見たい」という好奇心がその原動力だ。なによりパダウンの人たちが自分たちの文化に誇りを持った上で経済的な効果があると認識し、自ら観光客の前に出ている可能性だってある。私たちはみんな環境や事情、メリットとデメリットを秤にかけて生きている。その選択については、通りすがりのよそ者が安全地帯からがたがたいうものじゃない。
とりあえず、インレー湖のボートツアーに参加すれば、傘工房でパダウン族女性にあうことができる、というお話だ。書いててどこか後ろめたさがつきまとうのは、「首長族」という言葉のせいなんだろうなぁ…