2015 2泊3日弾丸ソウル10 2012年にリニューアルしたソウル歴史博物館で、日本統治時代の資料に見入った件
2016/08/22
西大門刑務所歴史館の展示内容が変更される1年前の2012年、ここからそう遠くない場所にあるソウル歴史博物館も展示内容がリニューアルされて再オープンをした。ここは平日には夜8時まで、土日祝日でも夜7時(11月から2月までは夜6時)まで営業していて、遅い時間の観光にもとても便利だ。しかも入館料は無料だと聞き、私は西大門刑務所前のから471番のバスに乗ってやってきた。直線で1km程度しか離れていないこの場所は歩いて行くことも可能だが、地下鉄は距離が短い割に乗り換えがありちょっとうっとうしい。
ここには常設展として、漢陽遷都から大韓帝国成立まで、大韓帝国時代、植民地時代(日本による併合の時代)、戦後からの高度成長時代、そして現在の5つの時代に分けた展示がされていて、その展示はかなり充実している。それでいて入場料は無料、しかも日本語のオーディオガイドまで無料と、大変太っ腹な施設だ。
世界にはまだまだ「ただ解説文をつけた展示品を陳列するだけの旧態依然とした博物館」が山程ある反面、「どう展示してどう解説しどう見せるかという『演出』」(と言ったら怒る人もいっぱいいそうだ)に神経を使っている博物館」も増えてきている。見学者の興味を引き理解を促すには当然後者の方が望ましいが、ここソウル歴史博物館も明確に後者と言って良い。良くできている博物館だ。
例えば、ここは60-70年代のソウル路地裏文化を象徴するピンデトック屋。
郊外都市に移転したかつてのソウルの人気店をそのまま持ってきて展示をしているのだが、こういうことができているのがこの博物館の大きな魅力だ。
もう一つここには、韓国併合時代の文物を意外と多く展示している、という特徴がある。
例えば、(日本側にしてみれば併合であって植民地化したつもりはなかったとおもうのだが)「植民地時代」のコーナーには他の博物館に比べればかなり多くの日本語資料、日本製品などが展示されていて、しかもお決まりの「悪辣な日本帝国主義による云々」というコメントが少ない。もちろん「植民地化が理想的な大韓帝国の政策を台無しにした」くらいのことは当然あちこちで言ってはいるのだが、糾弾の度合いはこの国としてはかなり低い。例えばこんな資料がある。
「昭和19年9月1日現在、京城市電話番号簿」
「京城観光案内図」「京城名所絵葉書」
「1933年和信百科案内」
「朝鮮博覧会(1929)時の市内絵図」
等々、一部の韓国の人が見たら怒って火をつけても不思議じゃなさそうな資料がいろいろあり、「ここはかつて大金をかけて『不愉快な日本統治時代の象徴』朝鮮総統府を解体した国なのになぁ」とすら感じる。よそよりは多めの展示ができている、というだけなのだが、それでもここではそういう印象を持ってしまうのだ。
個人的には日本語の資料であることが興味深く、いろいろ見入ってしまう。例えばこういう地図を見ると、南山には日本軍と関連施設が多くあったこと、今日本人観光客で賑わっている明洞界隈はかつて黄金町や若草町などと呼ばれていたこと等が分かる。台湾あたりでは結構見かける日本語地図だが、韓国では、こんなことが意外と分からない。
優れた博物館の常として、ここで行われている特別展示も興味深い物だった。
この日公開されていた特別展示は二つ、一つは「新林洞の青春」と題したコシウォン(考試院)とそれを取り巻く歴史や文化・環境についての展示、もう一つは「南山のパワー」と題した南山の場所と時代精神についての展示で、どちらもその着眼点は魅力的だし、期間限定の特別展としては良くできた展示だった。南山についての展示には「歴史を考証する上で日本統治時代に触れないわけにはいかない」的エクスキューズ付きだが、日本軍関連の資料も展示していたことにも驚いた。
ぶっちゃけた話、いろいろな歴史や感情、更には政治事情や思惑が渦巻く日韓関係だが、ここソウル歴史博物館の展示はなかなか面白い。日本人の韓国との関係についての考えや感情は様々だとは思うが、そういうことは置いておき、1度はのぞいてみても良いのではないかと思う。何しろ入場無料だし。