2012ミャンマー29 ニャウンシェの街で、多少えげつない布教人形を疑惑の目で眺めた件
2017/07/25
ニャウンシェはミャンマーでもダレ系の観光地だ。
なにしろ標高1300メートルの高原にある湖近くの街なのだから、リゾート気分は当然だ。更にはニャウンシェのあるシャン州の "シャン"とはタイのことであって、そのせいかどうか、勤勉なミャンマーとしては多少の緩さも感じる。仏教寺院と社会科見学くらいしか名所がないミャンマーでは、この緩さは貴重だ。しかもリメンバーインやアクエリアスインなどの居心地の良い宿もあるので、これは多少ダレても仕方がないと気がする。
もちろんニャウンシェの街にも見所がまったくないわけでもない。例えばリメンバーインのすぐ側には "仏陀博物館" なんてものもある。
ここはシャン州の藩王の屋敷を改装したもので、中には5世紀からの仏像や藩王の使っていたものなどが展示されている。2008年までは民俗博物館だったらしい。
内部は撮影禁止なので、バルコニーとパンフレットの写真だけになるが、まぁこんな場所だ。一応売りは「高さ3.2メートルの竹で作られた仏像」ということらしいのだが、正直ものすごい、という程じゃない。むしろ「シャン州の藩王は、こんな屋敷に住んでいたんだ」的好奇心を満たすくらいのつもりじゃないと、仏像だけではUS$2分楽しめないかもしれない。1962年の軍事クーデター以前、ビルマには33の藩王国があったのだ。
私はかなり博物館好きだと思うのだが、この展示で1時間過ごすのはちょっときつい。街の中心まで歩き、ニャウンシェで最も古い仏塔を持つという「ヤダナマンアウン・バヤー」などに行ってみる。
信心深いミャンマーの人にとってお寺や仏塔はかけがいのない存在なのだろうが、たった数日だけでもミャンマー国内を廻ってきた旅行者にとっては、正直「また寺かよ」的感想がないと言ったら嘘になる。多分私はここ数日で数百以上の寺院を視野に納めているのだ。じっくりみたものだけだってもう二桁だ。ただ寺だけってんじゃ、もう好奇心が沸かないんだよ、こちとら、である。
しかしその辺の事情を考慮してか(していないんだが)、この寺には旅行者を少しだけ喜ばせるアトラクションがある。生・老・病・死、更には現世での堕落や苦しみを表現する人形を展示したすんげーちんけな博物館があるのだ。しかも撮影料は200チャットと安い。
仏陀によると人生は苦の連続であって、どんな苦しみなのかというと、「生、病、死、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五蘊盛苦」なのだそうだ。そりゃ人間生きていれば苦しいことはいっぱいあるだろうけれど、せめて生だけでも幸せと感じていいじゃないか、と思うんだけれどなぁ。仏陀さん、ネガティブシンキングすぎ。
これは何だ?老いなのか病なのか貧しさなのか?どれも該当しそうなどれにも該当しなそうな微妙な人形だな。
これは老いってことなんだろうな。私も最近加齢による様々な能力の衰えを実感しているけれど、老いは自然な現象で別に苦しみって程じゃない気がする。もしそう見えるのなら、それは若い人間の思い上がりってもんだ。
これは殺生はいかん、ということなのだろうな。世の中にはその意味から動物性蛋白や脂肪を全く摂らない人たちが今もいる。思いは人それぞれでいいのだが、冷静に考えれば地球はそういう風には出来ていない気がしないでもない。この辺の話は、最近では荒川弘の銀の匙がとても上手に描いているのだが、仏陀さんはコミックが出るかなり前にあっち側に行っちゃったからなぁ、である。
うーん、この人からは多少「ちょい悪オヤジ」の匂いがする。個人的に「ちょい悪」とか中途半端なことを言って不道徳であることに免罪符を与えるようなこの言い方は大嫌いだ。だからこいつは「悪い」ってことでいいや。
あ、こいつは悪い、もう絶対に悪い。 何をやっていたのか知らないけれどまずは態度が悪い。咥え煙草も印象が悪い。喫煙者である私としては、できるだけマナーを守って個人の嗜好である喫煙を許してもらいたいと思うのだが、これじゃ台無しだ。しかも髪型のセンスが悪い。早く出家した方がいいな、こいつは。
そして極めつけがこれ。死だ。
いつの世でも、死は理不尽で悲しく、そして誰にも避けることができない宿命だ。人間の理不尽な死への恐怖が宗教を創り出したのもある意味事実だと思うし、死後生を信じることが死への恐怖を和らげ、道徳的に良く生きる助けになることも分かる。でも、この人形はどうなんだろうなぁ。「人間いつかこんな風にしんじゃうんですよ。死んじゃったらもう神様だか仏様の裁きを受けるんですよ。そのあたり、うちの宗教を信じれば大丈夫ですよ。今なら送料手数料もジャパネットが負担しますよ」的えげつなさと、尊厳を持って迎えられるべき死をあまりに卑しく描きすぎ、って気がする。
まぁ世の中にはもっとえげつない悪質な「宗教」がいっぱいあるから、これくらいならまだマシな方なんですけどね。ちなみに私の信じる私だけの神様は、「宗教は人間が運営する組織になったら、それは偽物ですから。神はお前の心の中と宇宙だけにいますから」と言っている気がする。