2012黒海西側を行く18 キシナウとブカレストを結ぶ夜行列車、車内編
日本語版wikipediaによると、モルドバの観光の見所は「首都のキシナウと全国の要塞と城塞」ということになっているのだが、少なくとも首都キシナウに関しては、数時間眺めただけで「もういいや」という気分になってしまった。滞在時間的にはブルネイのバンダルスリブガワンと同じ程度になったが、観光的な満足感はずっと低い。「モルドバに来たからには」的観光ポイントがろくにないのが弱いよなぁ、なのだ。オデッサで会ったかなりゆったりペースで移動している旅行者も、「モルドバは、えっと、そ、そうだなぁ、ワイナリーを見たけれど後は…」と言っていたくらいだったし。唯一心惹かれるのは沿ドニエストル共和国なのだが、ここのイミグレで要求されるであろうワイロを考えると、ちょっとうっとうしい。そういう訳で、再度キシナウの駅に戻ってきた。
「えっと、ブカレスト行きの列車、1等を予約したら、貸し切りになりますか?」
「はいはい、大丈夫…、ですね」
ブカレスト行きは夜行寝台列車だ。1等と2等の差額は240レイ(≒1800円)だが、これでブカレストまで個室を確保できるのなら、決して高くはないと思う。キシナウのドミだって10ユーロくらいはするし、個室を取ればもっとかかる。しかもこの列車はモルドバ国鉄の車両で、そうそう乗れるものでもない。個室も確定したし、私のモルドバのイベントはこれでいいや、だ。
ちなみにオデッサ行きにも使われる、モルドバ国鉄のローカル車両はこんな感じだが、
ブカレスト行きの国際列車は、こうだ。
この空間を一晩独占できて運賃込み約5000円なら、十分にペイする。西欧エリアの寝台列車で個室を確保したら、こんなものじゃ済まない。旧CISの貧乏国の列車、年季が入っていてシャワーなど望むべくもないが、部屋もトイレもそこそこ清潔で快適だ。貧相だけれど売店もある。
キシナウ市内のスーパーで買い込んできた食料で早めの夕飯にすると、車窓風景が夕焼けに変わっていった。寝台列車の個室なんて何年ぶりだろう。
前回も書いたが、キシナウからブカレストに向かうには、バスの方が便利で安い。列車ががらがらで出発当日に1等の個室を独占できたのもそのせいだ。物価の安いモルドバとは言え列車を使うのはそれなりの贅沢なのだが、この列車にはもう一つ、他ではなかなか経験できない興味深いイベントがある。