2016パリ13 レミゼラブルのパリ⑥ 下水道博物館でジャンバルジャンのマリユス救出に思いをはせた件
2017/04/05
六月暴動のバリケードからマリユスを助け出す時、ジャンバルジャンはパリの下水道を歩く。
「ジャン・ヴァルジャンがはいり込んだのは、パリーの下水道の中へだった。(中略) その向こうは厚い闇だった。そこにはいってゆくことはいかにも恐ろしく、一度はいったらそのままのみ尽されそうに思われた。けれどもその靄の壁の中につき入ることは不可能ではなく、また是非ともそうしなければならなかった。しかも急いでしなければならなかった。(中略) そして彼はマリユスを肩にかつぎ、前方に歩き出した。彼は決然として暗黒の中にはいって行った。」(レ/ミゼラブル「ジャン・バルジャン」)
物語に登場するこのパリの下水道を、実際に体験出来る場所がある。"Musee des Egouts" 下水道博物館だ。
わざわざパリに来てまで下水道にもぐろうというのは、社会科見学が好きかレ・ミゼラブルが好きかのどちらかだろうと思われるが、私はどちらも大好きなので迷うことなくここにやってきた。場所は7区のセーヌ南岸、シテ島からは3kmほど西に行った場所にある。
入口は少しわかりにくいけれど、”des Egouts" の文字を探せばすぐに見つかる。入場料は4.3ユーロだがパリのミュージアムパスも使える。2日間でも48ユーロと、ロンドンパス同様私には高嶺の花だが。
ちなみにここからエッフェル塔までは850m。私はここに一度も登ったことがない。どうせ登るなら上の展望台まで登りたいけれどご予算は17ユーロ、しかも夏は大混雑となると、あまり登りたいとは思えない。ジャンバルジャンの下水道には4.3ユーロ喜んで払うのだけれどね。
入口の階段を降りると、いきなり目に入ってきたのがこれ。
そう、そうなんだよ!この博物館は顧客の客層を大変良く理解していらっしゃる。私が見たかったのはまさにこの舞台なのだよ!
とは言え一応ここはインフラ施設を紹介する博物館なので、いきなり下水道にはでない。順路に沿うと、まずは関連展示を見ましょうね、という作りになっている。まぁ、嫌いじゃないですけどね。
ここには、Lutèceの昔から現在に至るまでのパリ下水道の歴史を、約500mの地下道で知ることができる。多くの人は「いや、とりあえず1832年でお願いします!」と言いたくなるのだろうけれど、そこはそれ、博物館側にも事情というモノがある。
ちなみにレ・ミゼラブルでマリユスが傷ついた六月暴動は1832年に起きた武装蜂起で、1848年の六月蜂起ではない。武装蜂起としては1848年の六月蜂起の方が大規模だったらしいのだが、1832年のものはABCの友のモデルでもある人権協会などが主導しており、なおかつユゴーは六月暴動の際をレ・アール地区周辺で実際に見聞きしたと、いう事情もあるらしい。まぁ、マリユスが倒れるのが1848年では「青年」というにはちょっと年かさになってしまうしな。
やがて、通路に嫌な臭いが流れてくる。話に聞いていたほど「ものすごく臭い」とは思わなかったけれど、地味に嫌な感じだ。下水の臭いだ。
(海に比べ)「下水道の中においてはただ、沈黙、暗黒、暗い丸天井、既にでき上がってる墳墓の内部、上を蔽われてる泥土の中の死、すなわち汚穢のための徐々の息苦しさ、汚泥の中に窒息が爪を開いて人の喉をつかむ石の箱、瀕死の息に交じる悪臭のみであって、砂浜ではなく泥土であり、台風ではなくて硫化水素であり、大洋ではなくて糞尿である。」(レ/ミゼラブル「ジャン・バルジャン」)
現代の下水道はそこまで悪夢の世界ではないかもしれないけれが、臭いことは臭い。
このあたりの水面にはプラスチックゴミが浮かぶ。19世紀には見られなかった光景だな。
「テナルディエはジャン・ヴァルジャンに自ら手伝って再びマリユスを肩にかつがせ、それから、ついて来るように合い図をしながら、跣足の爪先でそっと鉄格子の方へ進み寄り、外をのぞき、指を口にあて、決心のつかないようなふうでしばらくたたずんだ。やがて外の様子をうかがってしまうと、彼は鍵を錠前の中に差し込んだ。閂子はすべり、扉は開いた。擦れる音もせず、軋る音もしなかった。ごく静かに開かれてしまった。」(レ/ミゼラブル「ジャン・バルジャン」)
ただの格子戸ですら、ファンにはテナルデの開いた格子に見えてしまう。重症だよなぁ。
レ・ミゼラブルの扉絵を見慣れた人だと、21世紀のパリの下水道は「ちょっと物足りない」と感じるかもしれないが、下水道を物足りないと感じるのはあまり普通のことじゃない。私はここを出てから自分の思考に特殊な回路があったことに気がついた。当時の雰囲気に一番近いのは、この煉瓦作りのトンネルだろうか。
下水道博物館には売店もある。
キーホルダーなどの典型的な土産物の他、ネズミのマスコット人形や作業帽なんかがおいてある。ネズミという選択肢も悪くないけれど、作業帽というのは土産物としてはより珍しくて良い気がする。売店の近くにはトイレもあるぞ。
ここのトイレを使うと、流されたものはそのままここの下水道に向かうのか、あるいは、何らかの浄化施設を経由するのか、ものすごく気になる。あまりに気になるので、必要でもないのについ使ってしまった。お土産は買わなかったけれど、私にはこれが良い記念だ。
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