2017香港・開平6 フェリーで渡った馬頭角に屠畜場を利用した芸術村があった件
北角から渡ってきたフェリーの「九龍城乗り場」は、実は「馬頭角公衆埠頭」でもある。
古い記憶なのでちょっと自信ははないのだけれど、確かこの馬頭角公共埠頭は、海底トンネルが出来る前の時代、「フェリーの終った深夜に対岸に渡りたい乗客を乗せる小船が発着していた場所」だったと思う。もちろん他にもいろいろあっただろうけれど、その1つだったはずだ。「公衆」はそんな経緯があっての呼称でもあるんじゃないだろうか。
トンネルのなかった時代に想いを馳せ埠頭前を眺めるが、実に味も素っ気もない。もしかしたらこれは香港でもかなりの面白くない場所に来てしまったのか?
とりあえず海からちょっとだけ味わいを感じた建物の見えた北側に歩いてみる。何色かに塗り分けた中層ビルは、香港では結構時代物の特色だ。こちら側に行けば多少は面白いモノが見られるかもしれない。
うーむ、地味だ。地味すぎて香港を歩いている気分にならない。どうやらこの界隈は住宅地兼自動車工場街のようだ。どんな時も人に溢れている香港の印象をめいっぱい裏切る、その意味では結構意味面白い光景ではある。
自動車修理屋が並ぶ馬頭角路北側に連なる13の路地は、50年に渡る歴史を持つ馬頭角十三街と呼ばれる場所だ。ここには190以上の自動車修理店が軒を連ねるのだが、所有権の問題から再開発が出来ていない。
お、お粥屋発見!富粥という小さな店だけれど、売り物は粥より腸粉のようだ。
腸粉は13香港ドル(≒200円)から。物価の高い香港ではかなりお安いと言って良い。17香港ドルの雲呑麺をいただいてそんなに経っていないけれど、せっかくなのでいただいてみる。
とてもおいしい。腸粉は飲茶の定番メニューでもあるけれど、街角で食べる腸粉はレストランのそれよりふんわりとした物が多い気がする。作りたてだからできる食感だ。うむ、満足満足。街角の味、だな。
馬頭角路を北西に進むと、なんだかいわくありげな建物が見えてきた。自動車修理屋街のビル群も十分古めだけれど、こちらはもっと古めかしく見える。だいたい香港で煉瓦作りの低層建築があれば、それはイギリス植民地時代の遺構と相場が決まってる。これは何なんだ?
「前馬頭角畜牲検疫站」。どうやらかつての動物検疫所のようだ。
入り口が開かれており内部は公開されているようなので、入ってみる。
大変に良い感じだ。この検疫所の跡地は、現在「牛棚芸術村」として、アトリエ群として活用されている。アトリエでは作品の販売も行っているため、内部を見学できるものも少なくない。
しかし、芸術を理解する能力の低い私には、アトリエより旧検疫所としてのこの場所の方に興味がある。施設の概要については、入り口の掲示板で説明されている。
ここ前馬頭角畜牲検疫站は、1908年に馬頭角牛房として開設されて以来、90年にわたって検疫所として使用されてきた。検疫所と呼ばれてきたけれど実際には屠殺場でもあり、1999年に上水にの食肉処理場ができるまで現役の施設だった、とある。1969年にも長沙湾に食肉処理場作られたのだけれど、その後もまだまだ検疫所として現役だったのだそうだ。
結構最近まで使っていたのだな。そう思って見ると、なるほどこれは牛舎に見える。
煉瓦に囲まれた40平米の広場。よく見ると壁の下には給餌用の溝がある。
そしてこの屋外の誘導路は、やっぱり屠畜施設とその誘導路、なのだろうか。肉を食べる人間にとって必要な施設、だ。
軽い気持ちで北角から馬頭角までやってきて、もしかしたら何も見る物がないのではないかと思ったけれど、馬頭角十三街や元屠殺場兼検疫所も見られ、なかなかこれも悪くない。かなり地味な社会科見学だけれど、結構好みではある。