2018アゼルバイジャン5 カスピ海を眺めてから、バクー郊外にある地面から火が吹き出す「燃える丘」ヤナルダグ(Yanar Dag)まで地下鉄とバスで出かけた件
2022/10/03
朝、バクーパレスホテルからカスピ海まで歩いてみる。旧市街側のカスピ海海岸は公園になっていて、気持ちの良い散歩ができる。
「世界で一番大きな湖はどこでしょう?」
「カスピ海!!」
小学生の頃刷り込まれたこの種の知識は、年をとってもなんだかとても重要なことであるかのようにも思えてしまう。どうしても見たいかと言えばそれほどでもないのだけれど、それでも一応「世界で一番広い湖」にはご対面しておきたい。
ちなみにカスピ海は「湖」と言っても複数の国に面しているため、一国の領土内にある「湖」とは違い利権の問題が発生しやすい。
カスピ海の国際法上の扱いが「海」なのか「湖」なのかについては沿岸国の間で20年以上の議論があったのだが、半年ほど前の2018年9月に「カスピ海の法的地位に関する協定」に各国が調定し、沿岸線によって領海が存在する「海のようなもの」という扱いになった。背景には最近国際的にやや苦しい立場であるイランの譲歩があったらしい。
かつてそのイランに属したこともあるアゼルバイジャンは、ゾロアスター教発祥の地だとされる。
世界最古の宗教の一つでもあるゾロアスター教は、紀元前10世紀前後(諸説あり)預言者ザラスシュトラにより当時の古代イラン北西部で生まれたと言われ、それが現在のアゼルバイジャンにあたる、というのだ。なるほど、そんな事情を聞くと、アゼルバイジャンが「火の国」と呼ばれることの説得力が増す。がんばれ負けるな熊本、だ。
炎を象徴したデザインの高層ビル”フレームタワー”を建てるほど「火の国」であるアゼルバイジャン。その首都バクーの郊外、中心部から北西に約25km行ったアブシェロン地区に、常に地面から火が吹き出している場所がある。ヤナルダグ(Yanar Dag)だ。
ヤナルダグ(Yanar Dağ)は、アゼル語で「燃える丘」という意味になる。ここは天然ガスが自噴する丘で、そのガスが燃え続けていることから「燃える丘」と呼ばれるようになった。
その炎については「2000年間以上燃え続けている」説と「1950年代羊飼いが捨てたタバコがガスに引火し、それ以来燃え続けている」説がある。どちらが本当かはわからないけれど、天然ガスが吹き出すのだからどちらもありそうな話だ。ヤナルダグへは地下鉄とバスを乗り継いで行くことができる。
旧ソ連の地下鉄駅は、核シェルターとして利用することを想定していることも多く、ホームが地下深くエスカレーターが長いことが多い。旅行者的にはちょっとしたアトラクションとなる。
ヤナルダグを通るバスは、147番と217番の2本だけなので、どちらかのバスが通る駅まで地下鉄に乗ることになる。147に乗るならば地下鉄グリーンラインのAzadlig Prospekt駅、217番に乗るならばレッドラインのHazi Aslanov駅で降りることになるのだが、この後217番バスで拝火教寺院 Ateshgah に行く予定だった私は、147のルートを選んでみた。所要時間にそんなに違いはない。
バスに乗ってバクーカードを差し出すと、このバスでは使えないという。郊外にはこういうケースは少なくないようだ。こうなると4回限定チャージ不可能の紙カードとチャージ可能なプラスチックカード、空港でどちらを買うかなんて、現地事情をものすごく詳しく知らない限り決められるわけがない、と思う。旅行者は素直に自販機に5AZN札を入れて3AZNチャージしておけば良いのかもしれない。
バクー北西部郊外を走るバスからは、荒れ地に多分石油の掘削機が点在する独特な風景を見ることができる。なるほど、自噴する天然ガスが燃える土地、だ。
市内中心部を出て1時間と少し、147番バスはヤナルダグに到着する。
ヤナルダグの入場料は2AZN(≒130円)。大した金額ではないのだけれど、今日チェックインした駅に近いドミが5AZNだったせいか、とても安い、とは思えなくなっている私がいる。昨夜晩飯のケバブを1.5AZNで買ってしまったせいだな。
2000年だか60年だか燃え続けている炎にご対面。想像していたよりはこぢんまりとした炎だった。
確かに炎は燃え続けているけれど、トルクメニスタンの「地獄の門」ことダルヴァザあたりに比べれば、かなり可愛らしい炎と言えなくもない。しかし、自然に地面で火が燃え続ける、というのはそれなりに興味を引く光景であり、これが3000年前なら信仰の対象になるのも無理はないとも思う。日本にあったって信仰の対象になりそうなもんだ。
見方によっては焼却炉のようにも見えるけれど。
燃える火の上には丘が広がり、羊が草を食んでいる。
とりあえず登ってみたけれど、ものすごく良い景色が見られるというわけでもない。遠くにバクーの中心地とカスピ海が見えないでもない、そんな程度だ。
ヤナルダグはものすごく迫力のある観光スポットというわけではないけれど、自噴する天然ガスの炎は、この土地でゾロアスター教(拝火教)が生まれたことを素直に納得させるものだった。この光景を目に焼き付け、次はそのゾロアスター教の寺院までバスに乗ることにする。まずは217番のバスだ。