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イギリス 西ヨーロッパ

2016ロンドン9 ロンドン帝国戦争博物館はホロコーストに関する展示も充実していて、いろいろ考えさせられた件

2017/03/25

ロンドンにある魅力的な博物館は大英博物館だけではない。

もともと大英博物館の一部だった自然史博物館や(美術館系だけれど)ナショナルギャラリーやヴィクトリア&アルバート博物館、有料になるけれど交通博物館や、なんとなく観光ビジネス臭は漂うけれどハリーポッターやシャーロックホームズの博物館、なんてのもある。そんな数多いロンドンの博物館の中で、今回強く印象に残ったのが、ここ、ロンドン帝国戦争博物館だった。

「21世紀の今 ”Imperial” というのもなぁ」と思わないでもないが、最初に作られたのが1917年なのだから仕方がない。ちなみに略称は”IWM”(Imperial War Museum) で、イギリス国内にはロンドンの他マンチェスター(IWM Northと呼ばれる)、ダックスフォードにもある。ロンドンにある「チャーチルの部屋」や軍艦BellfastもIWMが管理している、というより、IWMそのものだ。そんな中IWMで最大規模で展示テーマが一般的なのが、ここロンドンIWMになる。

日本も過去イギリスと交戦した歴史を持つし、その同盟関係から戦争に関わることの少なくなかった国だが、1982年のフォークランド紛争(Falklands Conflict)には世界が驚いた。

イギリスとアルゼンチンという「西側先進国」が実際に交戦し、多くの戦死者を出す事態に至るなどということが、現実に起こるんだ、と感じた人も少なくなかったんじゃないかと思う。子どもながらに、私も驚いた。まだ冷戦を引きずっていたこの時代、「戦争」なんて東西が、あるいは(言葉は悪いのだけれど)「途上国」が起こす、くらいに思っていたのだ。「まさか、イギリスとアルゼンチンが」と思ったのだな。それだけ世界を見る目が幼かった、ということなんだけど。

初期の戦闘であるスタンレー占領では、アルゼンチン軍は「イギリス軍に戦死者を出さない」つもりでいたとされるのだが、最終的なこの戦争戦死者はイギリス軍が256人、アルゼンチン軍が645人と言われている。そしてこの戦争で、当時の首相サッチャーの人気は急上昇した。まぁありがちな話だわな。

このように、政策として戦争を選択する可能性のある「民主主義」国家として、軍や戦争について国民の理解と支持を得るための活動は業務の一環と言って良い。IWMは、見事にその役割を果たしている。そしてその展示内容は、以前とはかなり変わった。以前のような「兵器や装具などを並べる」古典的展示から、「テーマに基づいてフロアと展示を構成する」、現代的な博物館となっている。

 

館内にはいってすぐ目を引くのは、イラクのテロで破壊された車の姿だ。

2007年3月5日にイラク・バグダットの書籍街で発生したテロ事件は、38人の死者と多くの負傷者を出した。この展示はロンドン在住のジェレミー・デラーというアーチストによって展示が進められた。「かつて戦争による犠牲者のうち民間人は10%であったけれど、今では90%となっている」ことを伝える展示であり、デラー氏は「『戦争を賛美する施設』に置かれたことが重要」と言っている。

この車はIWMが「武器を誇示する展示館」から脱却したことの象徴になり得るし、今時軍が市民の支持を得ようとするならば、この程度はやらなければだめだろう。もちろん市民は、その意図や展示にいたる背景も知ろうとはするだろうけれど。

 

ちなみにこちらは、ガザで攻撃を受けた取材用ランドローバー。この車はガザを取材中ヘリコプターから砲撃を受け、乗っていた記者2名が負傷した。後述するホロコースト展示も充実したこの博物館に置くには、政治的にあまりに微妙なシロモノなのだけれど、これも上の破壊された車からそう遠くない場所に置いてある。さすが大英帝国、懐が深い。

 

とはいえ、武器や武具の展示だってなくなったわけじゃない。今だって主要な展示だ。「戦争博物館」を訪問する人の多くの興味/関心の対象はそこにあるのだから、なくすわけはない。そしてそれは実際に興味深い。

世の中には、武器、武具、軍の装備というだけで嫌悪感を持つ人もいるようだけれど、これらは立派な歴史的資料だ。血なまぐさい背景が苦手なら、大英博物館のリンドウマンや猫のミイラだって正視することはできないだろう。私にはどれも興味深い資料だ。

 

もちろん、日本との戦争に関する資料もある。

海外の旧日本軍に関する展示では定番とも言える日の丸への寄せ書きや、航空機の残骸、そして日本国内に撒かれた日本語のチラシの、多分余りか未使用品。読みにくいが、チラシの表面には「諸君、直ニ事実報道ヲ、要求シ給ヘ!!」とある。あまり優秀な翻訳じゃないな。

 

そしてホロコースト展示。

 

展示は撮影禁止なので概要はここを見ていただくとして、その内部はなかなか重い。2000年6月からの展示で、女王様の肝いりだ。内部には1933年から1945年までの、ナチスによるヨーロッパでのユダヤ人迫害の歴史が解説展示されていて、「14歳未満のこどもにはお勧めできない」とされている。その内容の深刻さもさることながら、迫害を受けた人たちの個人的な記録をも展示しているので、撮影禁止なのだろうと思う。極東からの旅行者である私にも、理不尽な暴力の残酷さがひしひしと伝わってくる。

ロンドンの帝国戦争博物館は、脳天気な「うちらの軍はこんなにすごいぞ」的な展示にとどまらない、戦争をテーマにした現代史博物館だった。地下鉄Lambeth North駅から徒歩5分、ロンドンアイやビッグベンからも徒歩15分、しかも入場無料なのだから、時間がある人は一度訪問して損はないと思う。

ちなみに同じIWMでも、空軍展示のダックスフォードは £18、戦艦ベルファストは£16、チャーチルの部屋に至っては£19(≒2670円)と大変にお高い。ロンドンやイギリスの他の観光スポットも同様だけれど、ロンドンパスでも持ってない限り、そうそう気軽には行けない。イギリスでは伝統的に博物館が無料であることも多いので、私はよほどの動機がない限り、無料の博物館を回るだけで満足してしまう。

イギリスでも財政緊縮の空気が高まった時期はあり、大幅な歳出カットも行われているのだが、現在も主要な国立博物館が入場無料を維持している。予算そのものはカットされても入場無料を維持するそこ心意気には、素直に関心する。

よっ!大英帝国。啓蒙主義、ご立派!粋だねぇ!!

まぁ、文化財返還請求の論調も厳しいし、フォークランド諸島も猫のミイラもロゼッタストーンも、もともとイギリスのものじゃなかったことも事実だし、いろいろ事情はあるんだろうけどさ。あまりお金のない旅行者には素直にありがたい。


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