戸来村のキリストの墓で脱力した私は、バイクを八幡平に走らせた。
オイル交換のためにたちよった近所のバイク屋さんによると、八幡平の道路は変則的なコーナーが多く、事故が絶えないそうだ。「特に下りは無理をしないで下さいね」とアドバイスされる。大丈夫、私には無理をしてコーナーを曲がる技量などない。
夏の八幡平は美しい。
しかしこんな景色を見ている場合ではない。私には別の目的地がああったのだ。
松尾鉱山跡地。
ここは標高1000mを越える高地でありながら、鉱山の労働力を確保するために、セントラルヒーティング・水洗トイレ完備の集合住宅が古くからあり、「天上の楽園」とすら言われた。学校や病院、更には芸能人が公演を行う劇場もあったらしい。しかし1969年に閉山になって以来、天上の楽園は静かに朽ち果てている。
敷地内は立ち入り禁止になっているが、道路は普通に走ることができる。私はカメラをめいっぱいズームにして天上の楽園を撮影した。
どんな立派な施設でも人が住まないと朽ち果てる。
昔の暮らしに想いを馳せて宿に戻ろうとしたとき、雪よけシェルターの中になぜか左折路があった。こういう場合私はなんの躊躇もなく進行していく。あまり安全な人生は送れない性格だ。
その先には、さっき遠くに見えた住宅跡があった。
手に取るような近さだ。立ち入り禁止になっていないのは、なぜか「生活学園」という学校の跡があり、鉱山跡と学校跡の所有権が違うからかもしれない。
ぎりぎりまで住宅跡に近づいてみる。
夏草が茂って間近にまではいけないが、カメラをズームにすると建物の中を撮影することもできた。
ここは歴史的に貴重な場所だと思うのだが、残念なことに他の鉱山跡地同様内部は荒らされているようだ。歴史遺産なのだから守って欲しいと思うのだが、どうせ壊れたものはもっと壊していいと考えてしまう人も一部にはいる。
ただ立ち入り禁止にするより、きちんと管理して入場料を取れば人は集まるのではないだろうか?そんなことを考えた。
本日の宿、八幡平YH。
1泊2食で5040円と、今回のツーリング中もっとも贅沢な宿となった。