SUZUKI GN125

GN125・原付2種東北耐久ツーリング 1日700q走行が何じゃ!

14、ニッホンの正しい蕎麦屋、山形・大石田・七兵衛そば

私は蕎麦が好きだ。

しかし嫌いな蕎麦屋が少なくない。日本には蕎麦とうどんという歴史と伝統を受け継ぐ麺があるが、どうも蕎麦だけが間違った道に走っているような気がするのだ。


以前家族で香川に行き「2泊3日米禁止うどんだけツアー」を行ったことがある。まだ小学生だった長男と長女は初日の夕飯であっさりとギブアップしたが、私は3日間うどんだけでも大変幸せだった。なにしろ旨くて安い。小100円などという破壊的な安さで、大変おいしいうどんを毎日食べることができ、幸せだった。しかもどんなにおいしいうどん屋も、くどい能書きを垂れない。


しかし蕎麦となると事情が違う。

なぜか蕎麦は日本の麺の中で不当に高い地位を占めてしまい、それに伴い、偉そうな主人の能書きうだうだ、不当な加工手間賃、店の不要に小生意気な内装など、困った店が多く、また消費者もそういう店をありがたがるM的傾向がある。



我が家の近くにも比較的安くて大変おいしい蕎麦屋があった。
開業当初は辺鄙な場所にあったこともあり客も少なく、店主や女将さんの対応もそれは親切だった。まだ小さかった長女を赤ちゃんかごに寝かせて行っても嫌な顔一つしないでおいしい蕎麦を食べさせてくれたものだ。

しかし店が評判になり少し賑やかな所に移転するや否や、店は様変わりしてしまった。値上げ、いかにもといった民芸風の内装、そしてうんざるする程の能書き。今店の入り口には読むだけで気分の悪くなる「店の掟」の看板が出ている。店の主人も、金を持っていそうな年長者が来ると自分で麺を茹でるが、若そうな客や金をもってなさそうな客だと女将さんに任せる、という有り様だ。当然私はこの店とは縁を切っている。



こういう勘違い蕎麦屋は少なくない。

10数年間夏を信州で過ごしていた時期があるが、その界隈にも少なくなかった。観光地でもあるため、接客が極端に酷いケースは少なかったが、能書きが多く不当な加工手数料(=価格)を取るのだ。言っちゃ悪いが、その程度の蕎麦をこんな値段で食べるなら、都心の方がマシだ。だいたい信州が蕎麦の名産地というあたりからが半分嘘なのだ。蕎麦は日本のあちこちで作られている。


こんな話を山形出身の友人にしたところ、熱い同意の涙と抱擁の後勧めてくれた店がある。それがこの七兵衛そばだ。友人は「頼むから山形に行ったら七兵衛そばに行ってくれ」と顔をくしゃくしゃにして泣いた。友人を大切にする私が、素通りするわけにはいかない。



七兵衛そばは、山形市の北、大石田町・次年子にある。山形市から向かうと、「東根そば街道」なる道を通りなかなかおいしそうな蕎麦屋が何軒も見えるが、ぐっとこらえてあくまで七兵衛そばを目指す。私は友情に篤いのだ。東根市の山中を超え大石田町に入ると七兵衛そばだ。周りには潔いほど何もない。山中の集落だ。

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しかしこんな山の中にある蕎麦屋なのにも関わらず、土日には行列ができるらしい。うまい店で行列はあたりまえだと普通は思うが、友人曰く山形人が行列を作るのはかなり特別なことなのだそうだ。


この店では入店するとグループに一枚番号札を取らなければならない。良くある蕎麦屋のように偉そうに仕切っていい気になっているのではない。この番号札をベースに給仕をするのだ。

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メニューは飲み物以外「盛り蕎麦」だけだ。
良くある偉そうな蕎麦屋のように、通の店を気取っているわけではない。他にメニューを出す余力がないだけなのだ。そば食べ放題1050円。私はこの「放題」という言葉に大変に弱い。

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席に着くと、番号札順に大根の絞り汁と小皿が3枚出てくる。この小皿の料理が山のお総菜という感じでなかなかおいしい。怪しい旅館の山菜料理などよりずっと味が良いのだ。

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そしてまた番号札順に蕎麦が配膳される。
蕎麦は大きめの椀に盛られている。多分我が家の近所にある堕落した蕎麦屋の1人前より多い。山形らしい太麺で外見はいかにも田舎そばなのだが、大変に香りも良い。

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これを例の大根汁と麺つゆで食べるのがこの店の流儀だ。「せっかくの蕎麦、大根汁なんかつけては香りが」とかなんとかがたがた言う野暮な奴は、勝手に付け汁だけで喰えばいい。

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うまい。大変にうまい。

私は粉の芯だけを弾いたような「上品」な蕎麦よりこういう蕎麦が好きだ。それに蕎麦自体の味も大変に良い。なにしろこの蕎麦は、「朝店主が心を込めて打っています」などというものではない。店のおばぁちゃんが入り口近くで打ち、それをすぐに茹で上げて運んできてくれるのだ。挽きたてのそば粉で打ち立てで茹でたての太い9割蕎麦がまずい訳がない。しかもこの店には、蕎麦を不味くする偉そうな能書きが一切ない。

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お椀の蕎麦が残り少なくなってきたころ、給仕さんが「おかわりいかがですか?」と聞いてくる。もちろんお願いする。この店は食べ放題、だれでも1満腹で1050円なのだ。大きな椀で食べる、緩いわんこそばのようにも思えるが、蓋を閉じないと終わらないだの急かすような給仕だのがなく居心地も良い。

私は3回お代わりをして、大変幸せな気持ちになった。



七兵衛そばは間違いなく旨い。

「もっと旨い店もあるんじゃないか?」と言われたら、否定はできない。しかし来たお客さん全員を満腹させてあげようと、打ち立て挽きたての蕎麦をお腹いっぱい食べさせてくれる、そんな店はそうない。単なる食べ放題ではない。おばぁちゃんが心を込めて打った蕎麦だ。


我が家の近所を含め、不当な加工手数料で馬鹿高い蕎麦を偉そうな能書きと一緒に提供している蕎麦屋のみなさんには、ぜひこの店を訪問して欲しい。あんたらの出している「品の良い、通も喜ぶ、粋な蕎麦」と、山形の山の中にあるこの野暮な蕎麦、どっちがおいしいか自分の舌で一度確認して欲しい、と思うのだ。


七兵衛そば
山形県北村山郡大石田町次年子266
0237-35-4098
営業時間 11:00〜18:00
定休日 第1・3木曜


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